- 全粒粉は体に悪いって本当?
- 体に良いって聞いたことあるけど
- 専門家の意見が聞きたい
そんな疑問をお持ちではありませんか?
全粒粉といえば、「体に良い」「栄養価が高い」などのポジティブなイメージを持っている方が多いと思います。
しかし、インターネットでは「体に悪い」という情報も目にすることがあり、健康のために全粒粉を取り入れようとしている方にとっては、どちらが本当なのか迷ってしまいますよね。
そこでこの記事では、管理栄養士の視点から
- なぜ「全粒粉は体に悪い」と言われるのか
- 実際の健康への影響はどうなのか
といった点をわかりやすく解説します。

管理栄養士 こま
- 30代の管理栄養士
- 急性期病院3年・給食委託会社8年
- 病院(2施設)とクリニックで栄養指導経験
- 1日平均4万食提供の委託給食の献立作成を担当
- 関西・関東の病院を中心とした給食提供実績
結論から言うと
この記事を読めば、全粒粉の疑問や不安がクリアになり、安心して食生活に取り入れることができるようになります。
全粒粉に興味がある方、健康的な食事を意識している方は、ぜひ最後まで読んでください。
そもそも全粒粉とは?

全粒粉とは、小麦の「表皮(ふすま)・胚芽・胚乳」すべてを丸ごと粉にしたものです。
一般的な白い小麦粉は、胚乳のみを使用しているのに対し、全粒粉は精製せずにそのまま挽いています。そのため、全粒粉はより自然な形に近い粉と言えます。
全粒粉と小麦粉の違いをまとめると▼以下の通り。
項目 | 全粒粉 | 小麦粉 |
含まれる部分 | 表皮・胚芽・胚乳 | 胚乳のみ |
栄養価 | 高い(食物繊維・鉄分・ビタミンB群などが豊富) | 比較的低い |
色・風味 | 茶色がかっていて香ばしい | 白くてクセが少ない |
食感 | ややザラつきがある | なめらかで軽い |
全粒粉が使われている食品の例
- 全粒粉パン
- 全粒粉パスタ
- 全粒粉クッキー 等
全粒粉は体に悪いと言われる理由

一見、体に良さそうな全粒粉ですが、なんで体に悪いと言われているのでしょうか?
以下のような理由が挙げられています。
- 消化に時間がかかる
- 酸化が早い
- フィチン酸が栄養吸収を妨げる
- 残留農薬の危険性がある
- グルテンやアレルギーのリスク
とはいえ、これらは特定の人以外は気にする必要がないものばかりです。その理由を解説します。
消化に時間がかかる

全粒粉は、一般的な小麦粉と比べて食物繊維を多く含んでいるのが特徴です。そのため、「消化に時間がかかって体に負担がかかるのでは?」と心配されることもあります。
たしかに、全粒粉と小麦粉(薄力粉)では、含まれる食物繊維の量に大きな違いがあります。
100g当たり | 全粒粉 | 小麦粉(薄力粉) |
食物繊維※ | 11.2g | 2.5g |
※プロスキー変法
全粒粉には、小麦粉(薄力粉)の約4.5倍の食物繊維が含まれており、かなり豊富です。
食物繊維は消化されにくい成分のため、胃腸が弱っているときや、もともと消化機能が敏感な方には、一時的に負担になることがあります。ただし、健康な人であれば特に問題になることはありません。
そもそも食物繊維には「耐容上限量(=これ以上とると体に害があるという上限)」が設定されていません。逆に、現在の日本人の平均摂取量は目標値に達しておらず、むしろ意識的に多くとるべき栄養素とされています。
また、「日本人の食事摂取基準(2025年版)」にも、以下のような記述があります。
(WHOの研究では)食物繊維摂取量と生活習慣病リスクとの間に明らかな閾値は存在しないことが指摘されており、より多い摂取量でさらなる疾病罹患リスクの低下が認められる可能性を示唆している
つまり、食物繊維は多くとるほど生活習慣病の予防につながる可能性があるということです。
こうしたことから考えても、健康な人が全粒粉パンを食べたことで「体に悪い」と判断するのは難しく、むしろ積極的に取り入れたい食品のひとつと言えるでしょう。
酸化が早い
全粒粉は、小麦粉と比べて酸化しやすいため、「体に悪いのでは?」と言われることがあります。
これは、全粒粉に含まれる胚芽の部分に、通常の小麦粉よりも脂質が多く含まれていることが理由のひとつです。
中でも、全粒粉に含まれる脂質には不飽和脂肪酸が多く、これは空気・光・熱の影響を受けやすく、酸化が進みやすい性質を持っています。
実際に、全粒粉と小麦粉(薄力粉)では、脂質や不飽和脂肪酸の含有量に明確な違いがあります。
100g当たり | 全粒粉 | 小麦粉(薄力粉) |
脂質 | 2.4g | 1.3g |
不飽和脂肪酸※ | 1.77g | 0.88g |
※一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸の合計値
栄養価を比べると、脂質・不飽和脂肪酸ともに全粒粉の方が2倍近く多く含まれています。
脂質は、一般的に酸化しやすい栄養素です。そのため、脂質が多く含まれる全粒粉は、小麦粉よりも酸化しやすくなります。
とはいえ、通常市販されている全粒粉製品には、それを考慮した賞味期限が設定されています。賞味期限内に適切に保存し、早めに食べれば、特に気にする必要はありません。
フィチン酸が栄養吸収を妨げる
全粒粉が「体に悪い」と言われる理由のひとつに、フィチン酸という成分の存在があります。
フィチン酸は、小麦の表皮や胚芽に多く含まれており、全粒粉にも当然含まれています。
この成分は、体内のミネラル(カルシウム、鉄、亜鉛など)と結合して、吸収を妨げる性質があるため、「せっかく摂った栄養素が吸収されにくくなるのでは?」と心配されることがあるのです。
たしかに、フィチン酸にはそうした働きがありますが、通常の食生活レベルで摂取する分には、健康に悪影響が出るほどの影響はないと考えられています。
むしろ、近年では抗酸化作用や抗がん作用など、健康にプラスとなる働きがあることもわかってきており、必ずしも「悪者」とは言い切れません。(参照:フィチン酸の栄養的再評価)
さらに、パンやパスタなどの加工食品では、発酵や加熱、浸水などの過程でフィチン酸はある程度分解されるため、実際に体への影響はさらに少なくなります。(参照:フィチン酸塩含量低減への発酵工程と全粒粉パン中の穀粒の影響)
つまり、フィチン酸が含まれているという理由だけで「全粒粉は体に悪い」と決めつけるのは正確ではありません。
残留農薬の危険性がある
全粒粉は、小麦の表皮や胚芽まで丸ごと粉にしているため、農薬が使用されていた場合、取り除かれにくいという特性があります。
一方、一般的な小麦粉(精白小麦粉)は、製粉の過程で表皮などが除かれるため、農薬が残るリスクは比較的低くなるとされています。
このことから、「全粒粉の方が農薬の影響を受けやすいのでは?」と懸念する声があるのです。
以下は、厚生労働省の残留農薬に関する記述です。
具体的には、我が国における各食品の摂取量を勘案して、食品を通じた農薬の摂取量が、
・毎日一生涯にわたって摂取し続けても健康への悪影響がないと推定される一日当たりの摂取量 (ADI:許容一日摂取量)
・24時間又はそれより短時間の間に摂取しても健康への悪影響がないと推定される量(ARfD:急性参照用量)
をそれぞれ超えないことを確認しています。
引用:残留農薬|厚生労働省
つまり、農薬の残留基準は食品ごとに厳密に定められており、それを超える製品が市場に出回ることは少ないです。
たしかに全粒粉は構造上、農薬の影響を受けやすい部分(表皮など)を含んでいますが、日本の食品基準においては、過度に心配する必要はありません。
また、最近では以下のような、より安心して選べる選択肢も増えています。
- 有機栽培の全粒粉
- ポストハーベスト農薬不使用の輸入小麦を使用した製品
どうしても気になるという場合は、有機栽培や無農薬表示のある製品を選ぶことで、リスクをさらに抑えることができます。
グルテンやアレルギーのリスク
全粒粉は小麦由来のため、グルテン不耐症の方や小麦アレルギーを持つ方にとってはリスクがあります。
ただし、全粒粉は一般的な精製小麦粉と比べると、グルテンの生成力が低いという特徴もあります。これは、胚芽や外皮などの部分が含まれていることで、グルテンの形成が妨げられるためです。
とはいえ、グルテンを避けたい方やアレルギーのある方にとっては、全粒粉も控えたほうが安心です。
つまり、全粒粉は、胃腸が弱っている方やグルテン不耐症、小麦アレルギーのある方には注意が必要ですが、これらに該当しない健康な方であれば、基本的に問題ありません。
全粒粉の体に良い健康効果

全粒粉には健康に良いさまざまな効果が期待されており、むしろメリットの方が大きいと言えます。
代表的な健康効果は以下の通りです。
- 栄養価が高い
- 腸内環境の改善
- 便秘予防
- 血糖値の上昇を抑える
栄養価が高い
全粒粉は、小麦の外皮や胚芽を含んでいるため、ビタミンB群、ミネラル、食物繊維、ポリフェノールなどが豊富に含まれています。
実際に、白い小麦粉(薄力粉)と栄養価を比較すると、全粒粉の栄養が多いのがよくわかります。
100g当たり | 全粒粉 | 小麦粉(薄力粉) |
エネルギー(kcal) | 320 | 349 |
蛋白質(g) | 11.7 | 7.7 |
食物繊維(g) | 11.2 | 2.5 |
カリウム(mg) | 330 | 110 |
マグネシウム(mg) | 140 | 12 |
鉄(mg) | 3.1 | 0.5 |
亜鉛(mg) | 3.0 | 0.3 |
ビタミンE(mg) | 1.0 | 0.3 |
ビタミンB1(mg) | 0.34 | 0.11 |
ビタミンB2(mg) | 0.09 | 0.03 |
ビタミンB6(mg) | 0.33 | 0.03 |
特に注目すべきは、鉄分は全粒粉の方が約6倍、亜鉛は約10倍、マグネシウムに至っては10倍以上の差があります。
また、エネルギー(カロリー)は全粒粉の方が低いため、栄養密度の高い食品といえます。
つまり、全粒粉は白い小麦粉に比べて、より効率よくさまざまな栄養素を摂取できるという点で、非常に優れた食品です。
腸内環境の改善
全粒粉には食物繊維がたくさん含まれているため、腸内環境の改善に繋がります。
食物繊維は、腸内の善玉菌(特にビフィズス菌など)を増やし、悪玉菌(ウエルシュ菌など)を減らす効果があります。
これにより腸内環境が整い、有害物質の発生を抑えたり、免疫機能を高める効果もあるとされています。
便秘予防
全粒粉には特に不溶性食物繊維が多く含まれています。この不溶性食物繊維は、腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)を刺激し、排便をスムーズにする働きがあります。
そのため、便秘の改善や予防に期待ができます。
血糖値の上昇を抑える
全粒粉は、白い小麦粉と比べて血糖値の上昇を穏やかにする「低GI食品」としても知られています。
これは、全粒粉に豊富に含まれる食物繊維が、糖の消化・吸収をゆるやかにするためです。
実際に、以下のような研究報告もあります。
小麦全粒粉をパンに配合することによって、食後血糖値の上昇が少ないパンの提供が可能である。食後血糖値の上昇が少ない食事を摂取すると、満腹感が持続すると同時に、インスリン必要量が少なくなり、グリコーゲン合成および脂質合成が抑制される。すなわち、肥満の予防につながる可能性がある。
つまり、全粒粉は血糖値が気になる方やダイエット中の方にも適した食材と言えるでしょう。
全粒粉の上手な取り入れ方とポイント

全粒粉は栄養価が高く、健康的な食生活に役立つ食材ですが、日常生活にどうやって取り入れるか悩む人もいると思います。
そこで、全粒粉を無理なく生活に取り入れるためのポイントをご紹介します。
食パンや麺の代替品として
全粒粉を粉から使用するより、全粒粉を使って作られた食品を利用するのがおすすめです。
特に取り入れやすいのが全粒粉パンや全粒粉麺です。いつもの朝食のパンや、昼食のうどん・パスタを全粒粉入りのものに置き換えるだけで、手軽に栄養価をアップできます。
小麦とブレンドして使う
全粒粉を料理に使いたい場合は、最初から100%で使うのではなく、小麦粉に2〜3割ほど混ぜるところから始めてみましょう。
パン、ホットケーキ、クッキーなどに使えば、クセを抑えつつ栄養価を高められます。
よく噛んで食べる
全粒粉は通常の小麦粉製品に比べて食物繊維が多く、噛みごたえがあります。
よく噛んで食べることで、満腹感が得られやすくなるうえ、胃腸への負担も軽減されます。
水分をしっかり摂る
全粒粉に多く含まれる不溶性食物繊維は、水分と一緒に摂ることで腸の動きを促します。
便秘予防や腸内環境の改善を目的に取り入れる場合は、十分な水分補給を心がけるとより効果的です。
全粒粉のよくある質問(FAQ)

ここでは、全粒粉に関するよくある疑問について、Q&A形式でわかりやすく解説していきます。
全粒粉パンを毎日食べても大丈夫?
基本的には問題ありません。
全粒粉パンは食物繊維やビタミン、ミネラルが豊富で、白いパンよりも栄養価が高いため、日常的に取り入れるのはむしろおすすめです。
ただし、食物繊維が多いため、胃腸が敏感な方は様子を見ながら量を調整しましょう。初めての方は、白いパンと半々で取り入れるなど、少しずつ慣らすと安心です。
子どもに全粒粉は与えていい?
与えて大丈夫ですが、年齢や体調に応じて調整を。
全粒粉は子どもにとっても栄養価の高い食材ですが、食物繊維が多いため、消化機能が未熟な乳幼児には負担になることもあります。
白いパンとどちらが太りやすい?
一般的には、白いパンの方が太りやすい傾向があります。
全粒粉パンは白いパンに比べて食物繊維が多く、血糖値の上昇を抑える効果(低GI)があります。また、噛みごたえがあるため満腹感が得やすく、食べ過ぎを防げるというメリットも。
ただし、バターや砂糖が多く使われている全粒粉パンもあるため、商品選びは大切です。
便秘に効く?下痢になる?
多くの場合、便秘改善に役立ちます。
全粒粉には「不溶性食物繊維」が豊富に含まれており、腸の動きを活発にして排便を促す効果があります。適度な摂取は便秘解消に効果的です。
一方で、体質や摂りすぎによってはお腹がゆるくなる(下痢気味になる)こともあるため、慣れないうちは少量ずつ取り入れるのが安心です。水分も一緒にしっかり摂ることが大切です。
まとめ:全粒粉は「体に悪い」より「体に良い」効果の方が大きい

この記事では、「全粒粉は体に悪い」と言われる理由や実際の健康への影響を解説しました。
要点をまとめると以下の通り。
- 全粒粉は食物繊維が豊富なため、胃腸が弱っている方は注意が必要
- 小麦由来のためグルテン不耐症や小麦アレルギーのある方も注意
- 健康な方であれば、全粒粉は問題なく健康に良い効果が期待できる
- ビタミン・ミネラル・食物繊維が豊富で、栄養価が高い
- 食物繊維により、腸内環境の改善・便秘予防・血糖値のコントロールなどの効果あり
全粒粉について「体に悪い」とされる声があるのは事実ですが、実際には、健康に良い効果の方が大きいと言えるでしょう。
特に日本人は、日常的に食物繊維の摂取量が不足しがちです。
そのため、たとえば普段のパンを全粒粉パンに置き換えるだけでも、食生活の質を高める効果が期待できます。

ぜひこの機会に全粒粉をうまく取り入れて、日々の食事から食物繊維の摂取量アップを目指していきましょう!





