- 鉄分ってどうやって摂ればいいの?
- 鉄分が多い食品って、レバー以外に何がある?
- サプリメントを使った方がいい?
そんな疑問を持っていませんか?
鉄分は、体にとって大切な栄養素ですが、不足しがちな栄養素でもあります。特に女性や成長期の子どもは、意識的に摂りたい人も多いのではないでしょうか。
とはいえ、「鉄分=レバー」というイメージが強く、レバーが苦手な方にとっては、「じゃあ、何を食べればいいの?」と悩むこともありますよね。
実は、鉄分はさまざまな食品に含まれており、工夫すれば毎日の食事で無理なく取り入れることができます。サプリメントは手軽ですが、デメリットも多いので、基本的には食品からとることがおすすめ。
そこでこの記事では、管理栄養士の視点から、鉄分を効率よく摂るコツや鉄分を多く含む食品について、解説します。

管理栄養士 こま
- 30代の管理栄養士
- 急性期病院3年・給食委託会社8年
- 病院(2施設)とクリニックで栄養指導経験
- 1日平均4万食提供の委託給食の献立作成を担当
- 関西・関東の病院を中心とした給食提供実績
「鉄分=レバー」しか思い浮かばなかった人は、ぜひ最後までみてください。
そもそも鉄ってどんな栄養素?

そもそも鉄はどんな役割があるかご存知でしょうか。
鉄は、赤血球の中にある「ヘモグロビン」という成分の材料となり、全身に酸素を運ぶ重要な役割を果たしています。さらに、鉄はさまざまな酵素の構成要素としても使われており、エネルギー代謝や免疫機能にも関わっています。
不足すると鉄欠乏性貧血を引き起こし、以下のような症状が現れます。
- 疲れやすさ
- めまい
- 息切れ・動悸
- 集中力の低下
症状が進行すると、運動能力や認知機能の低下につながることもあります。
鉄分の1日の必要量は?

鉄の1日の推奨摂取量は、日本人の食事摂取基準(2025年版)で年齢や性別に応じて定められています。
特に女性の場合は、月経の有無によって鉄の消失量が異なるため、推奨量もそれぞれ異なります。
▼年齢別・性別の鉄の推奨摂取量(mg/日)※10歳未満は省略
年齢 | 男性 | 女性(月経なし) | 女性(月経あり) |
10~11歳 | 9.5 | 9.0 | 12.5 |
12~14歳 | 9.0 | 8.0 | 12.5 |
15~17歳 | 9.0 | 6.5 | 11.0 |
18~29歳 | 7.0 | 6.0 | 10.0 |
30~49歳 | 7.5 | 6.0 | 10.5 |
50~64歳 | 7.0 | 6.0 | 10.5 |
65~74歳 | 7.0 | 6.0 | ー |
75歳以上 | 6.5 | 5.5 | ー |
鉄の耐容上限量はなくなった
以前の基準では、鉄には「耐容上限量(これ以上摂取すると健康リスクがあるとされる上限)」が設定されていましたが、2025年版の基準ではこの上限値が撤廃されました。
その理由としては、次のような点が挙げられています。
- 鉄の過剰摂取による深刻な健康被害が確認されているのは、特定の遺伝的要因を持つ人や、アルコールを多量に摂取する人に限られる。
- 一般の健康な人においては、鉄の過剰摂取による明確な健康被害(胃腸症状以外)を示す十分な科学的根拠がない。
ただし、耐容上限量がなくなったからといって、鉄をいくら摂っても安全というわけではありません。
鉄は体内に蓄積されやすい栄養素であり、過剰に摂取し続けると、臓器に負担をかけたり、健康障害を引き起こすリスクがあることは否定できません。
そのため、年齢や性別に応じた推奨量を目安に、バランスの良い食事から適切に摂取することが大切です。
ヘム鉄・非ヘム鉄とは?吸収率の違いと最新の考え方

鉄には、以下の2種類があります。
- ヘム鉄:主にレバーや赤身の肉、魚などの動物性食品に含まれる
- 非ヘム鉄:大豆製品、野菜、海藻などの植物性食品に多く含まれる
「ヘム鉄は吸収率が高く、非ヘム鉄は吸収率が低い」と聞いたことはありませんか?これまでは、吸収率の関係から、鉄分補給には動物性食品を優先すべきという考え方が一般的でした。
しかし、最新の食事摂取基準では、非ヘム鉄の吸収率に関する以下のような新たな知見が示されています。
非ヘム鉄はヘム鉄に比較して吸収率が低いため、鉄の摂取源として動物性食品を優先すべきとされてきた。しかし、非ヘム鉄の吸収率は鉄の栄養状態に伴って大きく変動し、特に鉄栄養状態が低い場合や鉄の要求性が高い場合、その吸収率はヘム鉄を上回ると考えられる。したがって、食事からの鉄の摂取において、摂取源としてヘム鉄の多い動物性食品を優先する必要はなく、大半が非ヘム鉄である植物性食品も積極的に利用すべきである。
鉄が不足している状態では、非ヘム鉄の吸収率が高まる。つまり、以前のように「鉄分補給=レバーや肉一択」と考える必要はなく、植物性食品からの鉄摂取も有効ということが分かったのです。
「鉄分はヘム鉄から摂るべき」という考え方は古くなっており、現在では非ヘム鉄からも積極的に摂取することが推奨されています。
鉄分が多く含まれる食品一覧

鉄分を上手に摂るためには、鉄を含むさまざまな食品をバランスよく取り入れることが大切。
ここでは、鉄分が多く含まれている食品を、食品群ごとにわかりやすくご紹介します。
穀類の中で鉄が多い食品
100g当たり | 鉄(mg) |
オートミール | 3.9 |
キヌア | 4.3 |
全粒粉 | 3.1 |
ライ麦パン | 1.9 |
全粒粉パン | 1.3 |
玄米 | 2.1 |
赤米 | 1.2 |
そば 生 | 1.4 |
とうもろこし | 1.9 |

穀類は鉄を多く含む食品ではありませんが、主食として毎日の食事で頻繁に食べるため、少しでも鉄の多いものに置き換えることで、積み重ねとして有効です。
豆類の中で鉄が多い食品
100g当たり | 鉄(mg) |
あずき 乾 | 5.5 |
いんげんまめ 乾 | 5.9 |
青えんどう 乾 | 5.0 |
そらまめ 乾 | 5.7 |
大豆 乾 | 6.8 |
黒大豆 乾 | 6.8 |
きな粉 | 8.0 |
木綿豆腐 | 1.5 |
厚揚げ | 2.6 |
油揚げ | 3.2 |
高野豆腐 乾 | 7.5 |
納豆 | 3.3 |
おから 生 | 1.3 |
湯葉 生 | 3.6 |
レンズまめ 乾 | 9.0 |



豆類は比較的鉄分を多く含む食品です。たとえば、デザートにきな粉を取り入れるなど、ちょっとした工夫で鉄分を手軽に摂取することができます。
種実類の中で鉄が多い食品
100g当たり | 鉄(mg) |
アーモンド 乾 | 3.6 |
カシューナッツ | 4.8 |
くるみ | 2.6 |
ごま いり | 9.9 |
ピスタチオ | 3.0 |
ヘーゼルナッツ | 3.0 |



間食にナッツを取り入れたり、料理にごまをこまめにふりかけるなど、ちょっとした工夫でも鉄分を摂ることができます。
野菜の中で鉄が多い食品
100g当たり | 鉄(mg) |
えだまめ 生 | 2.7 |
かぶの葉 生 | 2.1 |
こまつな 生 | 2.8 |
そらまめ 生 | 2.3 |
大根の葉 生 | 3.1 |
切り干し大根 乾 | 3.1 |
とうがらし 生 | 2.0 |
ドライトマト | 4.2 |
菜の花 生 | 2.9 |
ほうれん草 生 | 2.0 |
みずな 生 | 2.1 |
よもぎ 生 | 4.3 |
サラダな 生 | 2.4 |



野菜は一度にたくさん食べることができるので、鉄分の多い種類を意識して取り入れると、効率よく鉄を摂取できます。
きのこ類の中で鉄が多い食品
100g当たり | 鉄(mg) |
きくらげ 乾 | 35.0 |
乾しいたけ | 3.2 |
まいたけ 乾 | 2.6 |



乾きくらげは鉄分が豊富ですが、戻すことで一部が失われます。戻し汁を活用することで、より効果的に鉄を摂取できます。
海藻の中で鉄が多い食品
100g当たり | 鉄(mg) |
あおさ | 5.3 |
あおのり | 77.0 |
焼きのり | 11.0 |
いわのり | 48.0 |
かわのり | 61.0 |
まこんぶ | 3.2 |
刻み昆布 | 8.6 |
粉寒天 | 7.3 |
ひじき ステンレス釜 乾 | 6.2 |
ひじき 鉄釜 乾 | 58.0 |
乾燥わかめ | 5.8 |



海藻類には鉄分を多く含むものもありますが、一度にたくさん食べるのは難しいため、少量ずつこまめに取り入れるのがおすすめです。
魚介類の中で鉄が多い食品
100g当たり | 鉄(mg) |
いかなご 生 | 2.5 |
うるめいわし 生 | 2.3 |
まいわし 生 | 2.1 |
めざし 生 | 2.6 |
かつお 生 | 1.9 |
キャビア | 2.4 |
イクラ | 2.0 |
どじょう 生 | 5.6 |
きはだまぐろ 生 | 2.0 |
あかがい 生 | 5.0 |
あさり 生 | 2.2 |
牡蠣 生 | 2.1 |
しじみ 生 | 8.3 |
はまぐり 生 | 2.1 |
ほたて 生 | 2.2 |
干しえび | 15.0 |



ここでは取り上げていませんが、魚の内臓にも鉄分が豊富に含まれています。
肉の中で鉄が多い食品
100g当たり | 鉄(mg) |
牛もも赤肉 生 | 2.4 |
牛ヒレ 生 | 2.7 |
牛レバー 生 | 1.0 |
ローストビーフ | 2.3 |
うま 生 | 4.3 |
しか 生 | 3.3 |
豚レバー 生 | 13.0 |
ラムかた 生 | 2.2 |
鶏レバー | 9.0 |



レバーの中でも、特に豚レバーは鉄分を最も多く含んでいます。レバーが苦手な方には、鉄分を豊富に含む赤身の牛肉もおすすめです。
卵の中で鉄が多い食品
100g当たり | 鉄(mg) |
ピータン | 3.0 |
うずらの卵 | 3.1 |
鶏卵 | 1.5 |



うずらの卵は鶏の卵より鉄分が多いのですが、小さいために一度の摂取量は少なくなるのが残念なところです。
鉄分を上手に摂取するためには、ここでご紹介したさまざまな食材をバランスよく取り入れることを意識しましょう。
鉄分の吸収率を上げる食べ合わせ・摂取のコツ


鉄分は、摂取したすべてが体に吸収されるわけではありません。特に、非ヘム鉄は、ヘム鉄に比べて吸収率が低めとされています。
前述のとおり、非ヘム鉄は、体内の鉄が不足しているときには吸収率が高まる性質があります。しかし鉄不足でない人は吸収率が下がる傾向があるため、吸収を助ける食材と組み合わせることが効果的です。
ここでは、鉄分の吸収率を高めるための食べ合わせや摂取のコツをご紹介します。
鉄とビタミンCを一緒に摂る
ビタミンCは、非ヘム鉄の吸収を助ける代表的な栄養素です。
そのため、鉄の吸収を少しでも高めたい方は、鉄を多く含む食品と一緒にビタミンCを含む果物や野菜を組み合わせるのがおすすめです。
ビタミンCの多い食品は▼以下の通りです。
- 豆苗
- さやえんどう
- ケール
- ししとう
- 万願寺とうがらし
- ピーマン(緑・赤・黄)
- パセリ
- ブロッコリー
- めキャベツ
- モロヘイヤ
- 菜の花
- アセロラ
- いちご
- オレンジ
- 柿
- ゆず
- レモン
- キウイ
- グァバ
鉄と動物性たんぱく質と一緒に摂る
肉や魚、卵などの動物性たんぱく質も非ヘム鉄の吸収を高めてくれます。
たとえば…
- 豆腐ハンバーグに鶏ひき肉を混ぜる
- 鉄分豊富な野菜スープにツナを加える
といった、「植物性+動物性」の組み合わせが◎。



要するに、主菜と副菜を組み合わせたバランスの良い食事が基本ということですね。
鉄の吸収を妨げる食品に注意
一部の食品に含まれる成分は、体内での鉄の吸収を妨げることがあります。代表的なものは以下のとおりです。
- お茶・コーヒー(タンニン)
- 玄米や全粒粉食品(フィチン酸)
- 乳製品(カルシウム)
ただし、玄米や全粒粉食品には食物繊維、乳製品にはカルシウムなど、健康のために積極的に摂りたい栄養素も多く含まれているため、これらを過剰に避ける必要はありません。
鉄の吸収をできるだけ下げたくない場合は、お茶やコーヒーを食事と一緒に摂らないようにする、または食後1〜2時間程度時間をあけて飲むなど、タイミングを工夫することがおすすめです。



特に濃い緑茶やコーヒーを頻繁に飲む方は、飲みすぎにも注意しましょう。
鉄分サプリは必要?管理栄養士の視点から


鉄分は不足しやすい栄養素の一つであるため、「サプリメントで手軽に補えたら楽」と考える方も多いのではないでしょうか。
しかし、管理栄養士の立場から言うと、本当に鉄が不足している人以外は、サプリメントの利用には注意が必要です。むしろ、不要な摂取が健康に悪影響を及ぼす可能性もあるため、安易な使用はおすすめできません。
日本人の食事摂取基準(2025年版)では、鉄のサプリメント使用について、以下のような注意喚起が複数回にわたって記載されています。
健常者であっても、長期にわたる鉄サプリメントの利用や食事からの過剰な鉄摂取が、臓器への鉄蓄積を介して、健康障害を起こす可能性は否定できないとされている
貧血ではない妊婦・授乳婦への鉄の補給は、合理性がなく、むしろ母体及び胎児に健康障害を生じる可能性があると考えられる。…(中略)…貧血で無い妊婦・授乳婦が鉄サプリメント等を利用することは控えるべきである
高齢女性を対象にした研究では、鉄サプリメントの使用者では全死亡率が上昇することが認められている。…(中略)…鉄欠乏でない人が食事からの摂取に加えて、サプリメント等から鉄を付加的に継続摂取することは控えるべきである。
鉄欠乏又は鉄欠乏性貧血の場合の鉄補給は必要であるが、医師の指示に従って実施するものであり、個人の判断でサプリメント等を用いて鉄補給を行うことは控えるべきである。
このように、食事摂取基準では鉄サプリメントの使用について繰り返し注意喚起がなされています。
2025年版では耐容上限量(=安全に摂取できる最大量)が撤廃されましたが、それは「安全になった」ことを意味するわけではありません。
「健康のために」と思って始めたサプリメントで、かえって健康を害してしまう――そんな本末転倒な事態を避けるためにも、サプリメントの使用は慎重に。



鉄分が必要かどうかは、医師の診断を受けたうえで判断するようにしましょう。
まとめ:鉄分を上手に摂って体の中から元気に


この記事では、鉄分を効率よく摂るコツや鉄分を多く含む食品について解説しました。
要点をまとめると以下の通り。
- 鉄は、ヘモグロビンや酵素の材料となる重要な栄養素
- 耐容上限量は撤廃されたものの、過剰摂取には引き続き注意が必要
- 非ヘム鉄は吸収率が低いとされてきたが、体内の鉄需要が高いときには吸収率が上がることが分かった
- ヘム鉄・非ヘム鉄のどちらかに偏らず、さまざまな食品から鉄を摂ることが効果的
- 鉄分の吸収を高めるためには、主菜・副菜をそろえたバランスの良い食事が重要
- サプリメントの利用は、自己判断ではなく医師や専門家に相談のうえで取り入れる
鉄は、不足しやすい一方で、摂り方に迷う方も多い栄養素です。
以前は「鉄は動物性食品(特にレバー)から摂るのがベスト」とされていましたが、現在では、植物性食品も含めて、さまざまな食品からバランスよく摂ることが推奨されています。
「鉄=レバー」と思い込まず、日々の食事に多様な食材を取り入れながら、無理なく鉄分を補給していきましょう。



栄養バランスの取れた食事は、鉄の吸収率を高め、効率的な鉄補給につながります。

